北国の騎士、あるいは悩める青年の日記
光の月 十二日目
部屋の掃除をしていたら、偶然なにも書かれていない本を見つけた。せっかくなので、今日から日記を書いてみようと思う。
マリアたちとの旅を終えたあと、わたしは無事に故国であるスニェークへと帰ってくることができた。父上は相変わらず、あの厳しげな顔つきをくずさなかったけれど、「おかえり」とわたしをむかえてくれた。わたしの目を見ながら、そういってくれた。
ほかの騎士たちや兵士たちも、声をかけてくれた。なにもいわずに国を出ていったわたしのことを、ずっと心配してくれていたようだった。ひとりずつにお礼をいってまわり、あらためてここが自分の帰るところであることをうれしく思った。
しかし、魔物に壊されてしまった町の修復や、けがをした騎士たちの治療はまだ終わっていない。そしてなにより、女王のいなくなったこの国は、これからどうなってゆくのか――。
考えなければならない問題は山積みだ。わたし自身も、これから立派な騎士だと名乗れるように、そしてすこしでも、だれかのことを助けられるように力をつけたい。
わたしは、わたしのできることから始めていこう。まずは、剣の稽古をおこたらないことだな。
光の月 二十三日目
ようやく、この国にも春がやってきた。夜明けがかなり早くなったように感じられる。とはいってもまだ雪は残っているし、ほかの大陸よりははるかに気温は低い。
そういえば、旅に出てはじめてクーヘン地方に降り立ったときはおどろいたな。定期船から降りたと同時に、濃い緑のにおいがしたのを、今でもはっきりと覚えている。
思いかえしてみれば、あの地方でマリアとローナと出会ったんだ。それにアランも、あのときは同じ場所にいたはずだ。そう考えると、最初に目指した目的地を、あの地方にして本当によかったと思う。みんなに出会わなければ、わたしは今も故国に帰ってくることはできなかっただろう。
朝は変わらず冷えこむけれど、もう何日も雪が降り続けることはなくなった。そしておどろいたことに、雪の下で育つちいさな芽を見かけるようになった。
今までわたしは、この国には枯れた木々しかないものだと思っていた。季節だって冬が続くばかりで、暖かな春などやってこないものだと思っていた。
しかしわたしが見落としていただけで、この大地にもしっかりと新しい自然の命は芽吹いていたんだ。
光の月 三十日目
以前よりも、読む本の種類を増やすことにした。歴史の本や地理の本ばかりだった本棚に、おとぎ話の本が並んだ。
まずは、旅のあいだにマリアが教えてくれた『流れ星が願いをかなえる言い伝え』の話を読んでみた。そのあとに、悪い巨人をたおす物語も。わたしたちが出会った巨人が、こんなやつではなくて本当によかったな……。
人魚の悲しい恋の話には心が打たれた。だれかに恋をしても、その想いが届くことのないつらさや悲しみや、心の痛み。それが、物語の文章からひしひしと伝わってきた。
わたしは、まだだれかに恋をしたことはない……と思う。いつか、わたしもこういう想いをいだく日が来るのだろうか。そのときわたしは、どんな人を好きになるのだろう。
歴史や地理について書かれた本は、読めばその知識が得られるし、そもそも本というものはそのためにあると思っていた。しかし、こういうおとぎ話というものは、気持ちの変化や、心が成長するきっかけとなるのかもしれない。それもきっと、大切な本の役目なのだろう。
青葉の月 一日目
父上が正式に、女王陛下の行いを国民たちに公表した。陛下が、本当は人間ではなかったことも。
おどろく者もいれば、信じられないと疑う者もいたし、中には怒りをあらわにする者もいた。無理もないことだ。たとえ顔を知らなくとも、国民たちは陛下を敬い、慕っていたのだから。そんな陛下が魔物を従え、ほかの国をほろぼしていたなんて考えられなかったのだろう。
父上は、すべて自分の責任であると国民たちに頭をさげていた。
わたしもそのとなりに立とうとしたけれど、それだけは許してもらえなかった。父上の背中を、すこしはなれたところから見ていることしかできなかった。
魔物が生まれた理由や、陛下の正体を皆が知ってから、ことばに表せないような不安やとまどいが、城にも町にも広がっていった。
これから、この国がどうなってゆくのか……心にいだいている気持ちは、皆同じだ。国民たちが安心できるように、今はすこしでも早く、壊れた町を元どおりにしなければ。
青葉の月 七日目
朝の稽古が終わったあと、剣の調子をみてもらうため、城下町にある鍛冶屋へ行った。
そういえば、旅から帰ってきてからまともに町へと出かけたことはなかったな。町の復興作業も、わたしはほとんど城の近くで行うことばかりだったから、こうして故国の町並みを見るのは本当に久しぶりだ。
鍛冶屋へと続く道の途中で、何度か声をかけられた。皆、わたしが国をはなれていたことを知っていたようだ。たぶん、父上やほかの騎士たちが話したのだろう。
鍛冶屋のご主人からは「無事にお帰りになられたようで、安心しましたよ。なんたって、騎士団長さまのご子息ですから!」と手を強くにぎられた。そして、魔物から自分たちを守ってくれた騎士たちにとても感謝しているといった。
それをきいたわたしは、思わず顔がこわばってしまった。町が魔物におそわれたとき、わたしは町を守るどころか、大切な人たちの命をうばおうとしていたのだから……。
ご主人はそれに気づかず、自分が打った剣を騎士たちがふっているのを見て、とても興奮したと熱く語っていた。
「女王陛下のやったことは、たしかに悪いことかもしれませんが。魔物がいたからこそ、わたしの打った剣が役目を果たしたともいえるでしょう。魔物がいなくなった今、剣が人の命をうばうものにならなければいいのですが」と、ご主人はつぶやいていた。
肝心のわたしの剣は、どうやら旅のあいだにすこし刃こぼれしてしまったようで、打ち直すのにしばらくかかるということだった。
ご主人に剣をあずけて、わたしは城へともどった。ご主人がいったことばを、しっかりと胸に刻んでおこうと思った。
青葉の月 九日目
今日も朝の稽古のあと、町の方へと出向いた。この日は、壊れた家を修理する手伝いをした。不器用なわたしは工具を使えないので、ただひたすらに重い材料を運び続けるだけだったけれど。それでも、すこしは役に立てたようだ。
町が修復されてゆきながら、人々のあいだにもすこしずつ活気がもどっていった。閉まっていた店が再開したり、どこからかおいしそうなにおいがただよってきたり、にぎやかな話し声がきこえたり……こうして、元気な姿を見られるのはうれしいことだ。わたしも、久々に町の人との話に花を咲かせることができた。
そんな中、ひとりの女性に声をかけられた。
「ヴィクトルさま、またお会いできてうれしいです」と、その女性はいった……わたしのことを知っているようだった。
その女性の顔を見て思い出した。一年ほど前、郊外で馬車がたおれて動けなくなっていたのを助けたとき、そこに乗っていたのが彼女だった。あの日はとても吹雪が強かったから、あとすこし遅かったら、馬も人も凍え死んでしまうところだったんだ。彼女にはいわなかったが、わたし自身も結構あぶないところだった。
「あのときはご無事でなによりでした」とこたえると、彼女は微笑んだ。そして、ずっとわたしにずっとお礼をいいたかったことを伝えてきた。
町でわたしの姿を見かけなくなったから、ひどく心配していたらしい。旅に出たことを知ってからも、ずっとわたしの身を案じてくれていたようだった。
心配をかけたことを謝ると、彼女は「いいのです」と首を横にふった。そして、もう旅に出ることはないのかとわたしにたずねた。
そのつもりはないとこたえると、なぜだかうれしそうな表情をしていた。
青葉の月 十二日目
旅のあいだに届いていた手紙の返事が、ようやく書き終わる。そう思っていたら、また新たな手紙が届いた。故国へもどってきてから、さらに増えたような気がする……。
手紙の山の中から、マリアからの手紙を見つけた。封を切ると、マリアらしい元気な文字が目に飛びこんできた。
植えた種から芽が出たとか、新しいパンを考えて焼いてみたとか、他愛のない日々のできごとがつづられていた。
その新しいパンは好評なようで、村の名物にしようなんて話が出ているらしい。
『パンの生地に、ほんの少しだけオレンジの皮を混ぜてみたの。とってもおいしいから、いつか遊びにきたときは絶対に食べてね!』
そんな文章で手紙はしめくくられていた。それは楽しみだな。
日付を見ると、二十日ほど前のことのようだ。なにはともあれ、元気そうでよかった。
さっそく、わたしも返事を書くことにした。二十日ほどで届いたということは、わたしの返事もおそらくそれぐらいで届くのだろう。
青葉の月 十三日目
朝の稽古のあと、町で復興作業を手伝った。もうほとんど、町は元どおりになったといってもいいぐらいだ。むしろ、わたしが旅に出たころよりも、さらににぎわうようになった気さえする。
女王陛下のことも、皆すこしずつ受け入れ始めているようで、以前ほどの不安もあまり感じられなくなった。この国の人たちは、とても強くたくましい。
町の噴水広場で休んでいると、「ヴィクトルさま」と声をかけられた。ふりかえると、女性がひとり立っていた。あの、吹雪の中を助けた女性だ。しかしこの呼ばれ方は、とても落ちつかない……。
あいさつをすると、彼女はすこしどぎまぎとしながら、手に持ったバスケットからぶどう酒を取り出した。
「復興作業を行なってくれている方たちに、感謝の気持ちをこめて配っているんです」と彼女はいった。とても高そうなぶどう酒だった。体を温めてくれるから、スニェークでは酒は子どものころから身近にあるものだ……とはいえ、大人たちは専ら酒を嗜好品として楽しんでいるだろうけれど。
わたしも、一杯だけいただくことにした。それはすばらしい味と香りで、働いた体に染みわたるようだった。お礼をいうと、彼女は頬を赤くしてはにかんだ。そして、ほかの人たちにもぶどう酒を配りにいった。
きいたところ、あの女性は有名な伯爵家のご令嬢だということだった。だから、あんなにも高級なぶどう酒を持っていたのか。
高貴な生まれでありながら、気さくなところもあって町の人気者らしい。知らなかったな……この国の騎士団員として、町に住む人々のことはできるかぎり覚えるべきだろう。今度、住民登録本でも読んでみようか。
青葉の月 十四日目
今日は、久々の休日だった。なので、新しく建て直された本屋に行ってみた。
新品の本のほかに、古本も置いてあった。お客から読み終えた本を買い取って、それを安価で売ることにしたのだとか。
たしかに本は高価なものだけれど、こうすればもっとたくさんの人たちが本を読めるようになる。今度からわたしも、読み終えた本をここに持ってくることにしよう。
それと、文字を学ぶための本を見つけた。その本を買って、手紙といっしょにアランに送ることにした。アランは文字の読み書きが苦手なのを、とても気にしていたようだったから。
とはいえアランは頭がいいから、あっというまに覚えてしまうだろう。よけいなお世話だったかもしれないな。
そういえば、城へと帰る途中に、あの伯爵家のご令嬢の姿を見かけた。うわさどおりの人気者のようで、男性からいくつもの花束や贈り物をもらっていた。
彼女は笑顔でお礼をいっていたけれど、その笑顔はどこかさびしそうに見えた。
青葉の月 十五日目
打ち直された剣を受け取りに、鍛冶屋へ行った。すると、そこで働いている青年が、ひどく落ちこんでいた。いつもは明るく仕事熱心だというのに、まるで魂がぬけてしまったようだった。
どうしたのだろうと気になっていると、青年のかわりにご主人が勝手に話し始めた(青年は必死でとめようとしていたが……)。
どうも、彼はあのご令嬢に恋をしているらしい。しかしいざ気持ちを伝えたら、残念なことにふられてしまったそうだ。
ご主人はけらけらと笑いながら「まったく、きいたときはなんて無謀なことをしたんだと思いましたよ! そもそも、おれたちのような平民が、あんな高貴なお嬢さんにふりむいてもらえる方がおかしいもんだ。そうでしょう? ヴィクトルさん」とわたしにきいてきた。
わたしはなんてこたえればいいかわからず、あいまいに首をかしげた。たしかに、貴族は貴族どうしで結ばれるというのは、よくある話だ。亡くなったわたしの母も、名のある名家の生まれであったときいている……。
「まあ、これで身のほどを知ったってことで、とっとと元気を出すんだな」と、ご主人は青年の肩を強くたたいた。
青年はふきげんそうな顔で「ちぇっ。おれとあの娘じゃ釣り合わないなんてことは、最初からわかってたさ。それこそ、あの娘にはヴィクトルさんみたいな騎士さまがお似合いなんだってこともわかってる。でも、気持ちを伝えるのは自由だろ? それぐらいはさせてくれたっていいだろ。
それにさ、ふられた理由は家柄じゃねえんだ。あの娘、ほかに好きな男がいるんだってさ。ああ、まったくその男がうらやましいぜ! ちくしょう!」
そうさけんだあと、青年はいきなり勢いよく立ちあがって、かまどの中の炎と向き合い始めた。なんだかやけになっているように見えて、心配になった。
ご主人は「失恋も成長のひとつ。そのうち元気を出すだろうから、気にしないでください」といって、わたしに剣をわたしてくれた。
剣は元どおりになったが、わたしは複雑な気持ちだった。
恋というものは、どうしてこんなにも人を苦しめるのだろう。
青葉の月 二十日目
こまったことになった。
あのご令嬢から、「お話があります」と声をかけられた。町の中心にある、噴水広場にきてほしいと。
そこで……いわゆる、愛の告白を受けた。あとから知ったことだが、この広場で愛の告白をすると想いが届く、といううわさが広まっているらしい。わたしはもうすこし、町の流行に興味を持つべきかもしれない。
彼女は、一年前に助けたあの日から、わたしに恋をしていたらしい。わたしが国をはなれているあいだも、一度だってわたしのことをわすれなかったと。
「あなたのお姿を見かけなくなってから、どうして自分の気持ちを伝えなかったのかと、悔やんでばかりおりました。けれどこうして、またお会いすることができた……もう、自分のこの想いをおしこめておくだけなのは、いやなのです」と、彼女はわたしの目を見ながら、力強い声音でいった。
彼女はそれからすぐに「お返事はいつでも……いつまでもお待ちしています」といいのこして、そのまま走り去ってしまった。
彼女のことばが、いつまでも頭の中に何度も響いたまま、わたしはしばらく広場から動くことができなかった。
今までも、似たような内容の手紙をもらったことはある。しかし、それは容姿や剣の腕を褒めてもらったりだとか、育ちがよいと褒めてもらったりだとか……もちろんそんな手紙だって、とてもありがたいものではあるけれど。つまり、明確に告白のことばが書かれたものはなかったんだ。
今回ばかりはわけがちがう。ここまではっきりと好意を伝えられ、それにまさか、一年もわたしをわすれなかったなんて……。
とにかく落ちつこうと、部屋に帰ってから読みかけの本を開いた。しかし、何度も同じところを読み返してしまった。こんなことは初めてだ……。
青葉の月 二十一日目
なんということだ。寝過ごしてしまって、朝の稽古に間に合わなかった。父上の顔が、とてもおそろしかった。
罰として、ひとりで城中の窓拭きをさせられることになった。しかし、今日はかえって窓拭きの方がよかったのかもしれない。稽古では木剣を使うとはいえ、こんな状態で剣をふっていたら、けがをするところだった。
ようやく窓拭きを終えたときには、昼もすっかり過ぎていた。
「ごくろうだった」と父上はいい、それからすこし眉を寄せながら「なにかあったのか」ときいてきた。
わたしは、昨日のできごとを話そうか迷って、結局「なんでもありません」とこたえた。なんとなく、気軽に話してはいけないことのような気がした。
父上は「そうか」とだけこたえて、今日は早めに寝るようにとわたしに釘を刺した。
そして、「なにかあったらいつでも相談しなさい」と、いつもの厳しい口調でわたしにいった。
父上に心配をかけてしまっただろうか。わたしは頭をさげて、父上の背中を見送った。とにかく明日は、なにがなんでも稽古に間に合うようにしなければ。
青葉の月 二十二日目
どうにか、いつもの時間に起きることができた。今日は稽古試合の日だった。気を引きしめて試合にのぞんだつもりだったが、あまりいい結果を出すことはできなかった。このままでは、また父上に怒られてしまう……。
騎士団の仲間にも、「なにかこまったことでも起きたのか?」ときかれた。わたしはそんなにも、わかりやすいのだろうか。
幸いといえるのか、今日からわたしに城の見張りの当番が回ってきた。これでしばらく、町の方へと出向くことはなくなる。あのご令嬢と、ばったり出くわすこともない……そう考えると、すこしだけ心が軽くなった気がする……だめだ。そんなことを考えるなんて、彼女に失礼じゃないか。
昨日磨きあげた窓に、自分の姿が映った。びっくりするほど、眉間にしわが寄っていた。
なるほど、たしかにこんな顔をしているのでは、だれしも声をかけるだろう。
青葉の月 二十三日目
読みかけていた考古学の本をよけて、あの人魚のおとぎ話を開いてみた。何度読んだところで、結末が変わることはないのだが。
……もしもわたしが、彼女の告白を断ったら。彼女は、この人魚のように傷つくのだろう。そしてわたしは、人魚を傷つけた王子ということになる。
そもそも、断る理由などあるのだろうか? 彼女は町でも人気者で、家柄もよく、気立てもよくて美しい。きらいになるところなど、ひとつだってありはしない。
そしてなにより、こんなわたしを好きだといってくれたのだ。騎士としても、人間としても未熟者であるわたしのことを。
彼女は噴水広場のうわさを信じて、あの場所でわたしに告白をした。それぐらい、真剣な思いをわたしに伝えてくれたということだ。ならばわたしも、それにこたえなければならないはずだ。
それなのにどうして、こんなにも迷いが生まれるのだろう。
あまり待たせるわけにもいかない。見張りの当番が終わるころまでには、こたえを出さなくては。
青葉の月 二十六日目
考えがまとまらない。心なしか、食欲もなくなってきた。
いっそのこと、「わたしでよければ喜んで、あなたの気持ちにおこたえします」と、手紙を書いて送ってしまおうか。決して、わたしも彼女をきらいなわけではないのだし。なによりそうすれば、彼女が傷つくこともない……。
しかし、本当にそれでいいのだろうか? それが、本当に正しいことなのか?
そうやってなやんでいるうちに、わたしは今さらになって彼女の名前を知らないことに気がついた。名前だけでなく、町のどこに住んでいるのかも知らない。伯爵家のご令嬢なのだから、調べればすぐにわかるのだろうが……。
とにかく、これでは手紙を書くこともできないし、それに彼女は、わたしの目を見て伝えてくれたんだ。わたしも、きちんと彼女に会って返事をするべきだろう。
青葉の月 二十七日目
見張りを交代したあと、港へ行ってみた。城の裏側にある、船を停めるためだけのちいさな港だ。ほとんど使われることはないので、水門は今日も閉じている。
思ったとおり、そこにはだれもいなかった。ひとりで考えごとをするには、うってつけの場所だ。水門の横を通りすぎ、わたしは目の前に広がる海を見つめた。
黒くてつめたいとばかり思っていた、故国の海の水は、よく見ると深い青色をしていた。これからさらに季節が暖かくなるにつれ、明るい太陽の光が差しこみ、さらに鮮やかな青色になってゆくのかもしれない。
旅を終えてから、わたしはすこしばかり物の見方が変わったように思う。ちいさな自然の変化というのだろうか、そういったものに気がつけるようになった。わたしも旅を通して、すこしは成長できたということなのだろうか。
海をながめていたら、ふとマリアの顔が思いうかんだ。マリアの瞳の色も、海のように深くて、きれいな青色だったからかもしれない。
すると、いきなり海からなにかが飛び出したのが見えた。長くてまっすぐな、桃色の髪が波にゆれている。金色の瞳が、こちらを向いた。
それは旅のあいだに出会った、人魚のルゥルゥだった。ルゥルゥはわたしに気がつくと、元気よくこちらへと泳いできた。
「ひさしぶり!」とさけんでルゥルゥは笑った。わたしもつられて笑って、ひさしぶりだなとかえした。どうしてこんなところにいるのかきいたら、どうやら雪が降っているのを見てみたくて、友だちのイルカといっしょにここまでやってきたらしい。
わたしはイルカのことばはわからないけれど、すこしこまっているように見えた。その様子から察するに、ルゥルゥはまたお父上にだまって城を飛び出してきたにちがいない。
今は冬ではないから雪は降らないよと教えたら、「なあんだ」と不満げに頬をふくらませた。
けれどすぐに笑顔になって、「その代わり、あなたの顔を見られたからよかったわ」といった。
「でも、なんだかうかない顔をしているわね。どうしたの?」と、ルゥルゥはわたしにたずねた。
そのとき、わたしは――なぜだろう、なぜだかわからないけれど、ルゥルゥに自分に起きたできごとを話そうと思った。ルゥルゥになら話せると思ったんだ。案外、身近でない人の方が、悩みというものは話しやすいのかもしれない。
わたしは、町に住む女性に告白されたことをルゥルゥに話した。
するとルゥルゥは「きらわれて落ちこむならまだしも、好きだといわれたのになぜ悩むの?」と首をかしげた。
どう返事をすればいいのかわからないんだ、とこたえると「なにそれ。ヴィクトルはその人のことが好きなの? それともきらいなの?」ときかれた。
もちろん、彼女をきらってなんかいない。こうして好きかきらいかときかれたら、わたしは好きだとこたえるのだろう。
しかし――それは、ほかの町の人も同じだ。彼女はその町の人のうちのひとりにすぎなくて、彼女だけを特別に愛したいという気持ちはないんだ。これが、わたしの正直な気持ちだ。
そういうと「なら、それを伝えればいいじゃない。それがヴィクトルの気持ちなんだから」とルゥルゥはあっさりとした声でいった。
「それで、彼女が傷つくのがいやなんだ」とこたえたら、ルゥルゥは目を見開いて、それからものすごく怒ったように眉をつりあげた。
「それって、とっても自分勝手だわ!」とルゥルゥはさけぶようにいった。
「じゃあ、ヴィクトルは本当の気持ちをかくしたまま、その人に嘘の愛のことばを伝えるつもりなの? そっちの方がよっぽど残酷だし、傷つくわ」と、ルゥルゥは続けた。
わたしはなにもいえなくなって、ただルゥルゥを見つめることしかできなかった。ルゥルゥは、まだ怒った顔のままだった。
やがて、ぽつりとつぶやくようにルゥルゥはいった。
「しょうがないじゃない。ヴィクトルはその人のことを、愛しているわけじゃないんだもの。その気持ちは、どうやったって変えることなんてできないんだわ」
ルゥルゥのことばは、わたしの胸につきささるようだった。
旅のあいだに、自分の心が凍ってマリアたちを傷つけたことが頭をよぎった。剣をふっただけでなく、ひどいことばをかけてマリアたちの心も傷つけたんだ。
もう、あんなことはしたくない。わたしのことばで、だれかが傷つくのがいやなんだ。
わたしは「だれかに恋をしても、その気持ちが相手に届かないのは、とても悲しいことだと思う」とルゥルゥにいった。それこそ、泡となって消えてしまうぐらいに。
「そうね。心は傷つくし、きっと涙がとまらないと思うわ。
でも――それでも、あたしは好きな人には本当の気持ちを言ってほしい。嘘の気持ちで『愛してます』なんていわれたって、みじめになるだけよ。そうなるぐらいなら、泡になったほうがずっとましだわ……その女の人だって、きっとそう思ってる。だから勇気を出して、傷つく覚悟でヴィクトルに想いを伝えたのよ」
ルゥルゥは静かな声で、けれどはっきりとそういった。
わたしは、ルゥルゥの金色の瞳を見つめた。
ルゥルゥも長いこと、わたしのことを見ていた。
とつぜん、ものすごい速さでなにかがこちらへと泳いできた。今度は白い色をしたイルカだ。それを見たとたん、ルゥルゥの顔がさっと青くなった。
「やだ! もうお父さまにお城をぬけ出したことがばれちゃった! こうなったら、つかまる前にここからはなれなくちゃね」
そういって泳いでいってしまうまえに、わたしの方へとふりかえった。
「ヴィクトル。本当の気持ちは、ときにひとを傷つけるわ。あなたは優しいから、それをおそれてるのね。でも、その優しさが必ずしも、相手のためになるとはかぎらないんじゃないかしら。あたしは、そう思うわ。それじゃあね。またいつか会いましょ!」
ルゥルゥは早口でそうまくしたてると、あっというまにしっぽをひるがえして泳いでいった。そのうしろをあわててイルカが追いかけてゆくのを、わたしはぼんやりとながめていた。
再び、海は静かになった。だれもいなくなった海に向かって、わたしは「ありがとう」とお礼をいった。
青葉の月 二十八日目
剣の稽古が終わったあと、父上に「今夜、わたしの部屋へ来なさい」といわれた。そのことばがなにを意味するのか、騎士団たちはわかっている……お説教というやつだ。皆の、わたしに向けたあわれむような目がわすれられない。
先日の稽古試合のことだろうか。とにかく、近ごろのわたしのたるんだ行いへのお小言にちがいないと思った。
夜、おそるおそる父上の部屋へ行ってみると、とてもいい香りがした。わたしの好きな紅茶の香りだ。テーブルの上に、ティーポットとカップがふたつ置かれていた。紅茶にいれるジャムの瓶も置いてあった。
とまどっていると、父上は「すわりなさい」とわたしに声をかけた。そのことばにしたがって、わたしは父上の向かいに腰かけた。
父上は、わたしのカップに紅茶を注いでくれた。
「ジャムを入れるか?」と瓶を差し出されたので、いりませんとこたえた。甘いものは苦手だ。
父上はすこし残念そうな顔をして、自分のカップにだけジャムを入れた。一口飲んで、そのあとさらにもう一杯入れていた……こんなことまで覚えているのは、たぶんわたしがあまりに緊張していたからだと思う。
意を決して、どうしてわたしを呼び出したのかたずねてみた。まさか、こうしてお茶を飲むためだけに呼び出したわけではないだろう。
しかし……こたえはなんとその「まさか」だった。父上はすこしぎこちない微笑みをうかべて、「たまにはこうして、ふたりで話すのも悪くないだろう」と。
わたしはびっくりしてしまって、思わずカップを運ぶ手が止まってしまった。それを見て、父上は不服そうに「いやなのか」ときいてきたので、わたしはいそいで首をふった。
うれしいです、とこたえると父上は安心したような、ほっとしたような表情をうかべた。
それからしばらく、時計の針が動く音と、紅茶をすする音だけがきこえていた。うまくいえないけれど、わたしは静かなこの時間を心地よいと思った。たぶん……父上も同じ気持ちだったと思う。旅に出る前までは、こうしてふたりでお茶をのむようになるなんて、想像もしなかった。
父上はとつぜん、「この国は、これからどうするべきだろうか」とわたしに問いかけた。思ってもない問いかけだった。
「おまえの意見をききたいんだ。旅をして、世界を見てきたおまえが、どう思うのかを教えてほしい」と、父上はいった。そんなことをいわれるなんて、信じられなかった。以前の父上は、わたしになにか意見を求めたことなどなかったから……。
わたしはすこし考えて――そして、「ほかの国との交流を深めるべきだとおもいます」とこたえた。
「それが、いずれ戦争につながるかもしれなくても、か」と、父上はさらに問いかけた。
スニェークがこれまで平穏であったのは、女王陛下がだれの力も借りずに、ひとりでこの国を守り続けてくださったからなのだろう。
人が多くなれば、人と同じ数だけ様々な意見や思想が生まれるし、異なる考えをもった相手と、必ずしも手を取り合えるとはかぎらない。父上は、それがいつか争いにつながるのではないかと考えているのだろう。その考えは、おそらくきっと正しい……。
わたしはふと、ローナの笑顔を思いうかべた。そして妖精たちが、自分たちの時が流れることを選び、また人間たちと生きてゆく決意をしたときのことを思い出した。
結局、なにが正しいのかはわからない。けれどわたしは、妖精たちが選んだ道を、まちがったものだとは思わない。変化することに不安をいだきながらも、その先に光があることを信じて、道を選び進んでゆく……それは、人間も同じだ。
「戦争など起こさぬために、わたしたち騎士はいます。わたしたちはこれから、ただ力をつけるだけでなく、より多くのことを知らなくてはならない。よりよい道を、選んでゆくために。そのために、ほかの国の人たちの話をきき、触れ合うことが大切だと、わたしは思います」
わたしは、父上にそうこたえた。とても緊張していたけれど、ふしぎとすんなりとこたえることができた。
父上はじっとわたしを見ていた。やがて、「そうか」とだけつぶやいた。その表情がすこし優しげなものに見えた。
就寝までまだ時間があったので、わたしは思いきって母上のことをたずねてみることにした。今、きかなかったら、もうその機会はやってこない気がしたんだ。
亡くなった人のことをきくのは勇気がいる。わたしは一度も、父上から母上のことをきいたことがなかった。
父上はすこしおどろいたように目を見開いていたけれど、母上のことを話してくれた。
「おだやかな女性で、仕事ばかりであったわたしを、静かに支えてくれていた。少なくとも、わたしは愛していたよ。しかし、相手がわたしを愛してくれていたかはわからぬな」
どういうことだろう、とわたしは父上を見た。
「生まれたときから、わたしたちが結ばれることは決められていた。許嫁というやつだ。おたがいの家系を継ぐため、家が決めたことに従わなければならなかったよ。結婚したその日まで、おたがいの顔すらよく知らぬままだった」
そういう父上の表情は、どこかさびしそうだった。
わたしもこの家のためにそうするべきでしょうか、ときくと、父上は「なんだ、気になる人でもいるのか」と、からかうようにきいてきた。
あいまいな返事をすると、父上は苦笑いをうかべて「一度は、おまえをこの国から追い出した身だ。今さら、家柄のことをとやかくいうつもりはない。女王陛下も、もういらっしゃらない。おまえは、自分の好きなことも、自分の愛する人のことも、自由に決めればいい」といった。
いつのまにか、カップもポットの中身もすっかりからになっていた。
部屋を出たとき、父上は「明日は稽古に遅刻するなよ。それと……もしもおまえのとなりに、大切な人が寄りそうことになったら、そのときは必ず、わたしに教えなさい」とやたら早口でいって、そしてさっさと扉をしめてしまった。
残されたわたしは、そんな父上の姿が急におかしく思えてしまって、ひとり笑ってしまった。
笑われたことを知ったら、父上はきっと怒るだろう。
青葉の月 三十一日目
今日で、城の見張りの当番が終わる。わたしは、彼女にかえすことばを決めた。
窓ガラスに映った、自分の顔を見た。もう、眉間にしわは寄っていなかった。
虹の月 一日目
今日、彼女にもう一度会いにいった。噴水広場ではなく、彼女の家まで赴くことにした。
彼女はわたしの顔を見て、とても緊張したような顔つきになった。
わたしは、自分の本当の気持ちを彼女に話した。
あなたの気持ちが、本当にうれしかったこと。未熟なわたしにはもったいなさすぎるほど、あなたは魅力的であること。だからこそ、その気持ちにこたえたいと何度も思ったこと。
けれど、どうしてもそれはできなくて――どうしても、あなただけを愛する気持ちをいだくことはできないことを。
わたしのことばは、きっと彼女を傷つける。わたしは、その傷つけた事実を一生背負って生きてゆくしかない。
それでも、彼女が傷つく覚悟で想いを伝えてくれたのなら。それならばわたしも、傷つける覚悟で自分の本当の気持ちを伝えようと思ったんだ。
彼女はだまったまま、わたしのことばを最後まできいていた。
わたしがすべて話し終えると、彼女はぽつりと「わかりました」とだけいった。微笑んでいたけれど、その声も瞳も、肩もふるえてしまっていた。
その姿に、自分のしたことがどれほど罪深いことであるかを思い知った。それでも、わたしはその姿から目を背けてはいけないと思った。わたしは、人魚の物語の王子と同じだ。いつかきっと、わたしは彼女を悲しませた罰を受けるだろう。
「ひとつだけ、教えていただけますか」と、彼女はわたしにたずねた。
「わたしの気持ちにこたえられないのは、ヴィクトルさまが、ほかのだれかに恋焦がれているからなのでしょうか? なぜだか、そんな気がします」
わたしはおどろいて、彼女を見つめかえした。そんなはずはない。わたしはまだ、だれにも恋をしたことがないはずだ。その証拠に、こうして恋の相手をたずねられたってだれの顔もうかんでこない。
しかし、それならばなぜ、わたしは彼女の気持ちにこたえられなかったのだろう……。
だまっているわたしを見て、彼女はくすくすと笑った。
「ふふ。きっと、その方は……ヴィクトルさまの未熟なところや弱いところもちゃんと知っていて、その部分もまるごと、愛してくれる方なのでしょうね。わたしは、かないっこありませんわ。だってわたしは、あの吹雪の中、命をかけて助けてくださった、たよりになるヴィクトルさましか知りませんもの……」
そして「こうしてヴィクトルさまが、わたしに会いにきてくださった。気持ちは届かなかったけれど、こうして返事をくださった。それだけで、わたしはもう十分に、幸せです」と、彼女はわたしの目を見てそういった。
そういったときの、彼女の瞳はもうゆれてはいなかった。
虹の月 十四日目
わたしは毎日、剣の稽古を続けている。今のところ、休んだのはあの寝過ごした一日だけだ。
この国に、新たな女王が即位することはなかった。何人かの貴族たちから、王家の座を継ごうという話も出ていたけれど、結局それもなくなった。魔物を従えていた女王の跡など、継ぎたくなかったのか……あるいは、三百年以上もひとりで国を守り続けた女王の役目を、だれも果たすことなどできないと思ったのかもしれない。
大広間には、女王陛下の肖像画が飾られた。わたしと父上の話を元に描かれたものだ。
絵の中の女王陛下は、とてもおだやかな顔立ちをしていた。それでいて、わたしたちになにかを問いかけるような表情をしているようにも見えた。
父上は城の扉を開放して、国民たちがいつでも城へと入れるようにした。陛下の肖像画をみようと、何人もの人たちが城へとやってきた。だから、近ごろは特にせわしない日々が続いていた。
だれかがやってくるたびに、わたしたちはその人と話をした。平民も、貴族も関係なく。これからどうするべきか、たくさんの人たちと何度も話し合った。
皆で、考えなければならないことなんだ。この国で生きているのは、わたしたちなのだから。
ずっと静かだった城がこうしてにぎわっているのは、すこしふしぎなものだった。
あの、伯爵家のご令嬢が城へとやってきたこともあった。目が合うと、以前と変わらぬ笑顔をわたしに向けてくれた。わたしも、ほかの人たちと同じように、彼女にあいさつをした。
わたしたちは今日もこの国で、それぞれの道を歩んでいる。
炎の月 四日目
ずっと閉まっていた、港の水門を開くことになった。これからはすこしずつ、ほかの国からきた船を受け入れ、またこの国の船が、ほかの大陸へと向かう日も来るのだろう。
マリアからは、相変わらず手紙が送られてくる。春のはじめに植えた種は、ついに花を咲かせたそうだ。花びらでつくった栞を、いっしょに入れてくれていた。
アランからの手紙も届いた。たどたどしい字で、『本をくれてありがとうございます』とだけ書かれていた。懸命に書いている様子が思いうかんで、微笑ましくなった。
ふたりが住んでいる国とも、いつか手を取り合ってゆけるようになったらいいと思う。
虹の月 三日目
いつだったか、わたしのことを好きだといってくれた彼女が、港から船に乗りこむのを見かけた。
遠い国へと行く船だ。きいた話だと、その国に住む人の元へと嫁ぐのだそうだ。
この国をはなれてゆく、そんな彼女の瞳はどこまでも澄んでかがやいていた。彼女はきっと、自分の選んだ道を迷いなく進んでゆくのだろう。
海をこえてゆく彼女の姿を、わたしはとても美しいと思った。
彼女は、わたしに気づかなかった。わたしも、声をかけなかった。もう、この国で彼女の姿を見かけることはない。
明日も、たくさんの船がこの港へとやってくる。様々な人たちがこの国に足を踏み入れ、そしてそれと同じぐらい、この国からはなれてゆく人もいるのだろう。
たくさんの出会いと別れが、この国でも起こってゆくのだろう。
光の月 三日目
ついに、これが最後のページだ。
はじめて日記を書いたのは、もう五年も前のことだ。そのころのページと読み比べると、この国もわたし自身も、いろいろと変わったと思う。
よいこともあったし、悪いこともあった。そうやって、すべてのものは変化を続けてゆくのだろう。
わたしはもうじき、この国の騎士団長に任命される。正直な気持ちを書くと、今から不安でおしつぶされそうだ。こんなわたしに、その役目が務まるのかどうか……。
結局、自分に自信がないのは今も昔も同じだ。それがわたしなんだ。今はただ、自分の前に広がる道をひたすらに進んでゆくしかない。
ああ、でもその前に――かつて旅の終わりに別れを告げたとき、彼女と交わした約束をそろそろ果たしにゆこうと思う。あのときよりかはきっと、すこしばかりわたしも成長しただろうから。
五年前から変わることなく、今日も彼女から手紙が届いていたはずだ。それの返事は、直接会って伝えることにしよう。